子育て研究所

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Lesson 9-4 子供の心のメカニズム

 5歳のゆう君は、お母さんが家計簿をつけている向かいで、お絵かきをしていました。そのうち、ゆう君は貧乏ゆすりを始めました。「ゆう君、やめなさい」、お母さんが不機嫌な声で注意します。ゆう君はちょっと肩をすくめて、貧乏ゆすりをやめましたが、しばらくすると、また貧乏ゆすりを始めました。「ゆう君、やめなさいと言ったでしょう」と、お母さんはゆう君をちょっと叱るように睨(にら)みました。ゆう君はまた貧乏ゆすりをやめましたが、しばらくして、また貧乏ゆすりを始めました。とうとう、お母さんはペンを横に置き、ゆう君の膝をぴしゃりと叩いて、言いました。「やめなさいったら! どうして、ゆう君はママの嫌がることばかりするの! なぜ、おとなしくじっと座っていられないの!」

 どうして、ゆう君は貧乏ゆすりをやめられないのでしょうか。それは、ゆう君にもわかっていないと思います。ですから、お母さんの「どうして?」という質問には答えられないでしょう。まあ、お母さんのそういった場合の「どうして~」は叱る言葉ですが....。(疑問文で叱るのはあまりお薦めではありません。)
 ですが、理由はどこかにあるはずです。そして、母親も子供も嫌な思いをすることなく、反目しあうこともなく、こうした状況を切り抜ける解決方法がどこかにあるはずです。

 今まで、このホームページで学んできたことは、教育の仕方であり、しつけの方法ですが、あなたがあまり意識しないうちに、心理学の内容も学んできているのです。このあたりで少しそれをまとめてみましょう。

 人間の行動にはすべて目的があり、人間は常にある目標に向かって行動しています。人はその目的をはっきりと認識している場合もあれば、全く自覚していないこともあります。誰もが皆、自分自身にこう問いかけた経験を持っているでしょう。「私は何のためにこれをしているのだろうか?」と。このような疑問を抱くのはごく当然のことです。人間の行動は、意識下に眠っている動機によって操られているのですから。子供たちも同じです。子供を違った方向へ導いてやりたいと思うなら、私たちはまず、彼が取っている行動の心理的な方向を知らなければなりません。
 その子の行動の裏に潜(ひそ)むものを察知してやらなければ、子供を変えることは難しいでしょう。心が身体を動かしているのですから、子供の行動を変化させるには、その心を変えるしかありません。しかし、その為には、子供の心理を知らなければなりません。子供の心理を知るとは、私たちがよく言う、子供の気持ちをわかってあげることとは別のことです。
 さて、子供の心理を探るにはどうすればいいのでしょうか。それは、子供が手に入れた結果を分析することによって、見えてくる場合があります。

 先の例では、母親はひどく苛立(いらだ)っていました。ゆう君は母親を苛立たせようとしていたのです。もちろん、意識的にではありません。彼には、母親を苛立たせたいと思う理由があるのです。ゆう君は、母親に怒鳴られ、叩かれることによって、母親の注意を引きたいという望みを見事に達成しているのです。それが母親の注目を得るのに非常に有効だということは、今までのゆう君の経験から、既に実証済みのことです。今までその方法で、必ず母親の注意を引くことができていたのです。それなのに、どうして貧乏ゆすりをやめなくてはならないのでしょう? こんなに効果てきめんなのに!

 貧乏ゆすりをすれば、大好きな母親は自分だけに注目してくれます。ゆう君の心の奥底に潜む目標を知る手掛かりがここにあります。ゆう君は、こうした感情の流れを自分では全く気づいていません。しかし、彼は一日に何回となく、この目標に従って行動しているのです。母親がゆう君の期待通りの反応を示すと、彼の隠れた動機は、より一層強化されます。もしも、思い通りの結果を得られないことがわかったなら、いくら貧乏ゆすりをしても母親が全く苛立ちを示さなくなったら、ゆう君に貧乏ゆすりを続ける意味があるでしょうか? ゆう君はそのうちあきらめるはずです。もちろん、無意識的にあきらめてしまうのです。

 しかし、それだけでは充分ではありません。何故なら、そのことでゆう君が貧乏ゆすりをやめたとしても、彼には貧乏ゆすり以外にも、母親の注意を引くことのできる切り札がたくさんあるのです。それに対して、母親はどう対処すべきでしょうか。母親はゆう君の困ったな行動に注目を与えないと同時に、ゆう君が困った行動をしていない時に、スキンシップをしたり、笑顔で微笑みかけたりするなどの関心を示してあげるといいでしょう。そうすることによって、ゆう君はやがて、行儀の悪いことをして母親の注意を引こうとはしなくなるはずです。

 このページは重要なポイントなので、再度申し上げましょう。母親が苛立った態度を示したり、注意をしたり、平手打ちを加えたりすれば、それこそゆう君の思う壷です。彼はますます母親を苛立たせ、母親の怒りを買おうとするでしょう。ゆう君は貧乏ゆすりをすることによって、自分の気持ちを必死に訴えているのです。「僕を見て! 家計簿にばかり注目してないで、何か言ってよ! 無視されるのは、叱られるよりも耐えられないことだよ!」と。ここまで察することができれば、母親はゆう君の動機にすぐに気づくことができるでしょう。ゆう君は母親の注意を引くことによって、自分の居場所を求めているのです。所属したいという人間の根源的な欲求を満たそうとしているのです。(既に説明しましたね。) もちろん、その所属したいという欲求は決して間違っていません。むしろ、正しいことです。しかし、それを達成するための手段が良くないのです。この課の最初で学びましたね。そのページの(4)のことを解説しているんですよ。おわかりでしょうか。多くの場合、子供(大人も)の心理的な、潜在的な目標は間違っていません。しかし、それを達成するための手段は間違っていることも多いのです。
 そして、そのことが理解できれば、あなたもこのような状況をうまく切り抜けることができるでしょう。子供をくどくどと叱りつけるのは間違いです。子供はますます母親を苛立たせるだけですから。
 さらにまとめましょう。この課の最初のページの(4)でお話した、「子供の困った行動には一切注目しない」というのは、こういう意味だったのです。その言葉だけを伝えると、「子供の問題行動に対して、何も口出ししないのか、それは教育を放棄していることだ」と批判を受けるのです。そういった人には、今までこのホームページで説明したことをずーっと最初から説明していかないと、理解してもらえないのです。私たちの教育法が広まらない限りは、あなたは育児を放棄した親だと誤解を受けるかもしれません。ですから、できるだけ多くの人に伝えていただきたいと思います。
 一切注目しないのは、まるで気がつかない振りをするということです。気がついているけど、我慢しているのがわかると、効果は半減でしょうね。お友達がうっかりおならをしてしまった時、全く気がつかなかった振りをしてあげるでしょう。一切注目しないとは、そういった感覚です。自分がおならをした時に気がつかない振りをするのは得意でも、そちらは苦手ですか?

 今まで、多くの保育のベテランと言われる人たちが、次のようなアドバイスをしてきました。「いつかその行為をやめる日が来ますから、それを信じて何度も何度も子供に言い聞かせるのがしつけであり、教育ですよ」と。そして、「しつけは根気よくやることが大切です。イライラしてはいけません。おおらかな気持ちでしなければなりません」と。
 ご苦労様でした。子供は親の気を引くことに関してはプロですよ。「おぎゃあ」と産まれたときから、誰にも教わっていないのに、あんな可愛い笑顔で、親だけでなく、周りの人全てをとろけさせることのできるツワモノです。その子供と今まで母親は争っていたのです。「母親を苛立たせて、注目を得ようとする子供」対「教育のため、しつけのために、イライラしてはいけない、何としても我慢しなければならないとする母親」の根気比べです。それで、子育てのストレスが溜まらないとしたら、その方は偉大な教育者であり、人格者です。私にはできそうもありません。(まあ、するつもりもありませんが....。) そういった根気比べで、忍耐強くなりたい人は、これからもその方法を続けるのもいいでしょう。多くの育児本で言われている、「子育ては親育て」という意味は、こうした根気がつくという意味の場合が多いようです。
 私が、このホームページで説いてきたことは、「無理ない子育てをしましょう」ということでしたね。残念ながら、私のやり方では根気が養われないかもしれません。それでも、このホームページのやり方を学びたい方には、さらに情報を提供しますので、続けて学んでやってください。

 ちょっと最後が皮肉っぽい文章になりましたが、これも、あなたに今までのやり方からさっぱりと縁を切っていただきたいという気持ちの表れだと解釈していただけると幸いです。