子育て研究所

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Lesson 4-3 事例研究 子供の喧嘩

 さて、どうでしょうか。上記の例は保育所の現場で実際に私が対応したものですから、学校の先生方にも似たような経験があると思います。もちろん、ある程度の年齢のお子さんをお持ちのお母さん方にも似たような経験があるでしょう。
 インターネット上でも、「子供が喧嘩をした時は、じっくりお互いの言い分を聞いて....。というのが望ましい」と助言をもらうし、テレビドラマの熱血先生も同じようなやり方です。中には、「子供の喧嘩なんだから放っておけ」という(昔ガキ大将だったような)お父さんタイプの人もいます。また、やられたらやり返せと、子供を焚(た)きつける人もいます。あなたはどのタイプですか?

 さて、私がした対応を紹介します。まだ、習っていない指導法も出てきますが、ありのままをご紹介します。繰り返しになりますが、問題のところまで戻しましょう。
 ある保育所に私がおじゃました時のことです。私の目の前で、4歳の春夫君と秋夫君がおもちゃの取り合いを始めました。先に春夫君が遊んでいたものを、秋夫君が力ずくで取ろうとしたのです。どのような展開になるのかと思って、しばらく見ていますと、春夫君がおもちゃの取り合いに勝利し、秋夫君が泣きながら私の所にやってきました。
 「先生! 春夫君がおもちゃをひとり占めする...」と泣きながら言います。

 私は子供どうしの喧嘩に首を突っ込むことはあまり好きではありませんし、子供に権力を振りかざして、警察や弁護士や裁判官や刑の執行人の役を同時にするようなこともしたくはありません。なぜなら、そうすることは骨が折れるし、どちらの味方をしても良い結果を残さないし、子供たちが自分たちで自分たちの問題を解決するという機会を失うことになるからです。もうすぐ5歳になろうとする彼らにはそういった問題を解決する力がもう既に備わっているはずです。しかし、そういった力があっても、実際にそれを学ぶ機会がなかったならば、できないのも当然と言えます。ですから、そういった場合、大人がより良い解決方法を何度か教えてあげないといけないと思います。何度か教えているうちに、自然とできるようになるものです。
 また、私は常々、次世代を担(にな)う子供たちに、暴力ではなく、話し合いで問題を解決する力を身につけてもらいたいと思っていますので、秋夫君に以下のようなアプローチをしてみました。

 私は秋夫君に、「泣きながらだと何を言いたいのかよく分からないから、もう少し落ち着いてから話しを聞かせてくれる?」と優しく言いました。
 これは、もう4歳ぐらいの年齢になれば、「泣けば大人が味方になってくれる」といった意識をなくさなければならないと考えての言葉です。このぐらいの年齢になると、泣きながら訴えてきたり、怒りながら要求を言ってきたり、駄々をこねるという手段で親に物をねだったりしますが、それに屈してはいけません。そこで要求を受け容れてしまうと、「泣けば親が味方になってくれる」、「怒れば人は自分の言うことに従う」、「駄々をこねれば、欲しいものを手に入れられる」といった考えを無意識のうちに持ってしまい、大人になっても、人を自分のいいように支配するために、怒りや悲しみの感情を使う人間になってしまいます。決して泣くなという意味ではありません。泣きたい時は泣けばいいんです。ただ、泣いたら誰かが何とかしてくれるということを学習してもらいたくないのです。感情にばかり頼っていると、言葉や話し合いによって問題を解決するという力が身につかないのです。
 もし、あなたが口で説明するより早く、子供を叩いてしまう、つい手が出てしまうというのは、そういった言葉による解決方法を身につけてこなかったからかもしれません。でも大丈夫です。そのことに気づき、意識してなおそうとするならば問題ありません。

 そうすると、泣きやんで、少し落ち着いた秋夫君が再び来て言いました。
 「あのね、春夫君がおもちゃをひとり占めする...」
 「そう。春夫君がおもちゃをひとり占めするんだ。...」と冷静に秋夫君の目を見ながらやさしく答えました。
 そうすると、秋夫君はきょとんとした表情をしました。私が春夫君を叱ってくれるとでも期待していたのでしょうか。秋夫君は自分の状況を話した上で、先生という権力によって、問題の全てを私に解決して欲しいと考えているようです。しかし、その(無意識の)作戦にひっかかるわけにはいきません。
 「それで、秋夫君は春夫君にどうして欲しかったの?」と尋ねます。
 「おもちゃを貸して欲しかったの」と秋夫君が答えます。
 「そう、それでおもちゃの取り合いをしたんだ」
 「うん」
秋夫君は春夫君と喧嘩(けんか)をするのが目的ではなくて、おもちゃで遊びたかったということがはっきりしてきましたね。
 「取り合いじゃなくって、どうしたらもっと良かったと思う?」と言うと、
 「...」 ちょっと困ったような表情の秋夫君を見て、
 「『おもちゃを貸して』って頼んでみたらどうかな?」と喧嘩ではない別のやり方を提案してみます。
すると、秋夫君はそれには返事をせず、直接春夫君に言いました。
 「春夫君、おもちゃ貸して」

 秋夫君が、怒ったような言い方をせずに、冷静にして欲しいこと頼めたことが、とても嬉しかった瞬間でした。しかし、先程の喧嘩の余韻(よいん)が残っていたのか、春夫君はしばらく考えて、「だめ」と言いました。
 秋夫君はちょっと困って、こちらを見ています。
 「じゃあ、春夫君に、『後で貸してくれる?』と頼んでみたら?」と助け舟を出しました。
 「じゃあ、遊んだ後、貸してね。」と秋夫君は自分の言葉で頼みました。とっても素晴らしいことです。今度は春夫君も快く「いいよ」と言ってくれました。
 私はとても嬉しかったので、秋夫君に、「今の頼み方、先生、とっても嬉しかったよ。して欲しいことをきちんと言葉で伝えられたからね」と秋夫君に言葉をかけました。

 しばらくして、秋夫君は別の遊びをはじめました。春夫君も取り合いになったおもちゃを置いて、別の遊びを始めました。
 「ねえ、秋夫君。春夫君はもうあのおもちゃで遊んでないよ」と教えてあげると、秋夫君はそのおもちゃを取りに行きました。
 こういった積み重ねで、少しずつ言葉での解決方法を学んで欲しいなぁと思いながら、秋夫君を見ていますと、なんとそのおもちゃを持って、春夫君の方に行くではありませんか? おや、どうするんだろうと思って見ていますと、
 「ねえ、春夫君。もうこのおもちゃ、僕が使ってもいい?」と秋夫君が尋ねます。
それに明るく「いいよ」と答えた春夫君の表情を見た時、「ああ、子どもたちは、私の期待以上に一気に成長するなぁ」と、感動しました。